Kennyの一橋大学日本史対策

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改憲論の盲点―日本国憲法は押し付けられたのか


現実味を帯びてきた憲法改正

安倍首相が日本国憲法の改正を目指していることは周知の事実ですが、あまりにも不甲斐ない野党を尻目に、いよいよ本格的に着手するようです。

安倍首相の目論見としては、まずは野党が批判しにくい緊急事態条項の新設によって憲法改正の前例を作り、次に本丸である9条の無効化を図るのでしょう。

今日は、憲法改正問題について整理することとします。

 

憲法とは何か

皆さんは、自民党憲法改正草案を読んだことがありますか?

インターネット上で公開されていますから、ぜひご覧になってください。

改正項目は多岐に渡りますが、全体的な傾向として「国民の義務を増やしたうえで、個人主義を否定する」狙いがあります。

つまり、現行憲法が国民の権利ばかり主張していて、国民の果たすべき義務を明確に規定していないことを問題視し、「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚」させることによって、日本国民の団結を図ろうとしているわけですね。

確かに「権利の前に義務を果たせ」というのは、一見もっともな主張です。

しかし、憲法とは何かということを考えれば、自民党改憲草案は滅茶苦茶なものであると言わざるを得ません。

 

既に多くの学者が指摘していますが、憲法とは国家権力を制限するためのものです。

すなわち、権力者の暴走を防ぐことが憲法の役割だといえます。

決して、憲法は国家が国民に守らせる最高法規ではありません。

したがって、憲法に国民の義務を規定する必要など無いわけです。

緊急事態条項についてですが、国家権力を制限するための憲法に緊急事態条項*1という例外的権限を入れることが危険かつ愚かな行為であることは言うまでもありません。

 

日本国憲法は押し付けられた憲法

改憲派は、日本国憲法の制定過程から現行憲法批判を展開します。

日本国憲法はアメリカ(GHQ)に押しつけられたものであり、日本が自主的に制定したものではないから改憲すべきだ、という「押し付け改憲論」です。

確かに、日本国憲法GHQの主導で制定されたことは事実です。

しかし、これをもって日本国憲法を「押し付け憲法」と断定することは出来ません。

 

第一に、GHQは草案作成にあたって、日本人の憲法私案を参考にしていました。

高野岩三郎らによる民間の憲法研究会は、1945年12月に主権在民原則と立憲君主制をとった「憲法草案要綱」を発表し、GHQや日本政府にも提出していましたが、GHQマッカーサー草案を執筆した際、この「憲法草案要綱」を参照したのです。

第二に、GHQ草案がそのまま新憲法になったのではありません。

日本国憲法大日本帝国憲法を改正する形式で制定されましたが、最終的な政府案の作成や議会審議の過程で追加・修正がなされました。*2

特に、戦力不保持に関する第9条第2項に「前項の目的を達するため」との字句を加えた芦田修正は、自衛のための軍隊保持に含みを残した点で非常に重大な変更でした。

したがって、日本国憲法が日本の意向を完全に無視して制定された「押し付け憲法」であるとはいえないのです。

 

憲法と国民の意思

日本国憲法は日本国民の政治的意思が確認されていない状況で成立したものであり、したがって正統性を持たないと主張することも可能でしょう。

しかし、日本国憲法が戦後70年に渡って守られてきた以上、その制定過程にかかわらず、もはや事実上の正統性が存在していると考えるのが妥当です。

つまり、いったん制定された憲法は、政治的意思やイデオロギーから切り離され、固有の秩序を形成するわけです。

よって、国民の政治的意思にかかわらず、日本国憲法の体系は正統性を持つのです。

 

自民党改憲論は話にならない

以上で見てきたように、日本国憲法改憲派が主張するような「押し付け憲法」などではありませんし、その正統性は戦後の歴史によって担保されています。

また、憲法は普遍的な価値に基づいて定められなければなりません。

すなわち、国家権力の暴力から国民の基本的人権をどう守るのかを定めることが憲法の役目であり、日本の文化や伝統・愛国心といった個別的で実体的な価値を憲法に盛り込むべきではないのです。

したがって、自民党改憲論は憲法の基本理念を考えれば、全く話にならないものだと言えるでしょう。

 

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*1:武力攻撃や大災害などが起きた場合、首相が閣議で「緊急事態」を宣言すれば、法律と同じ効力を持つ政令の制定が可能になり、国民には国や公共機関の指示に従う義務が生じる。

*2:芦田修正の他に、日本側の強い要望によって二院制の国会が継続することとなった。